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札幌地方裁判所 昭和50年(ヨ)415号 決定 1975年10月11日

債権者 石田伸子

右代理人弁護士 江本秀春

債務者 株式会社 宣広

右代表者代表取締役 村上俊夫

右代理人弁護士 曽根理之

同 文仙俊一

主文

一  債権者が債務者に対し、労働契約上の権利を有することを仮に定める。

二  債務者は債権者に対し、昭和五〇年四月二二日から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り月額金六万円の割合による金員を仮に支払え。

三  申請費用は債務者の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

債権者は主文一、二項同旨の裁判を求め、債務者は「本件仮処分申請を却下する。申請費用は債権者の負担とする。」との裁判を求めた。

第二当事者の主張

一  債権者

(一)  債務者は広告宣伝デザインを主たる業務とする会社である。

(二)  債権者は昭和五〇年四月一日債務者に、試用期間を一か月、給与月額六万円の約でデザイナーとして雇傭されたものであるところ、債務者は同月二一日債権者に対し解雇をなした。右解雇は何らの正当な理由もなくなされたもので、かつ労働基準法第二〇条一項に定める予告手当の提供もなされなかったから、無効である。

二  債務者

債務者は、本件第一回審尋期日において債務者が債権者を試用したうえこれを解雇した事実を認めたが、これは事実に反し債務者の重大な錯誤に基くものであるので取消す。債務者は昭和五〇年七月四日に設立された会社であり申請外旧株式会社宣広(現商号は株式会社北潮社)とは目的、資本金、株主、役員を異にする別会社であり、債務者と債権者との間には当初から何らの雇傭関係もない。なお、右申請外会社は、昭和五〇年四月一日債権者を試用期間三か月の約定で雇傭したが、債権者は、デザイン部門の他の二名と全く協調せず独断で仕事をして同部門のチームワークを乱したり、他の部門との連携も無視する等従業員として不適当な事由があったため、昭和五〇年四月二一日債権者に対し解雇の通告をなしたうえ、同月二五日同人に対し同月一日から二一日までの給与四万二、〇〇〇円と共に三〇日分の予告手当を提供して、有効に解雇をなしたものである。仮に右事実が認められないとしても、申請外会社は債権者に対して、同年五月七日右予告手当の支払いを申出たが、債権者が受領を拒絶しているものであって、本件解雇は右五月七日に効力を生じている。また遅くとも、前記解雇通知をなした同年四月二一日から三〇日を経過した時点で、その効力を生じている。

第三疎明≪省略≫

第四当裁判所の判断

一  債務者と申請外株式会社北潮社(旧商号株式会社宣広以下「申請外会社」という)との関係について

≪証拠省略≫によれば、申請外会社は昭和五〇年二月五日商号を株式会社北潮社から株式会社宣広に変更し、同年四月一日から新たに広告、印刷等の営業を開始したこと、しかし同年六月一八日商号をもとの株式会社北潮社に戻すと共に同会社の名ではまもなく営業活動を休止し、他方で同年七月一四日債務者会社が設立され株式会社宣広の商号を続用して申請外会社の営業を承継し、その営業活動は前後中断されることなく継続的に行なわれてきたこと、両社の代表取締役はいずれも村上俊夫であって同一人であること、申請外会社は本店を札幌市中央区南一条西八丁目六番地の五に設けた旨登記していたが、実際の営業は同市中央区南六条西二〇丁目三五三番地において行っていたところ債務者はその営業を右同一場所において行っていること、債務者と申請外会社の従業員は全く同一であって、その間申請外会社が解雇手続を行ったわけでもなく、債務者が新たに採用手続を行なったわけでもないことが認められる。のみならず、本件当初の審尋期日(昭和五〇年八月七日)において債務者代表者は、「株式会社宣広」の代表者として(この時点では申請外会社はすでに株式会社北潮社に商号を改めているのであるが)債権者を試用し解雇したことを認めたうえ、債務者は昭和五〇年二月に北潮社から宣広に商号変更して設立された会社であると主張し、債務者が同年七月設立されたということについてはなんら触れておらず、かつ第四回審尋期日に至るまで一貫して、申請外会社と債務者とが別異の法人であることを問題としないで主張、立証活動を行ってきている。従って、債務者代表者自身も債務者と申請外会社が継続性を有し、実質的には前後同一であるとの認識を有していたことが窺われるのである。以上のような事実を総合して考えるとその余の会社構成の実態についてさらに審理するまでもなく債務者と申請外会社は、経済的社会的にみて継続性を有し、本件雇傭契約の関係においては、実質的に前後同一の会社であるとみざるをえない。また株式会社が被用者とその解雇を廻って紛争中特段の合理的事由がないのに旧会社の人的物的営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、それは労働契約上の義務を免れるためになされたものと見るべく、しかも新旧両会社の実質は前述の如く前後同一で継続性を有する以上会社は被用者に対して信義則上新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社の何れに対しても右労働契約上の義務履行を請求できるものと解することができる。そして本件の場合右合理的特段の事由は認められないので、両会社が形式的には別法人という形をとっているとしてもその間における雇傭契約の承継等について改めて論ずるまでもなく申請外会社と債権者との間の雇傭契約の効力は、債務者に直接及ぶものと解すべきである。

二  解雇の効力について

(一)  ≪証拠省略≫によれば、申請外会社は昭和五〇年四月一日債務者を試用期間を三か月、給与を月額六万円で雇用したが同月二一日、同人に対し即時解雇を通告し同月二五日それまで働いた二一日分の給与として四万二、〇〇〇円を支払ったのみで、解雇予告手当の支払も提供もしなかったことがそれぞれ認められる。ところで労働基準法二一条四号によれば試用期間中の者といえども一四日を超えて引き続き使用されるに至った場合には、同法第二〇条が適用され、同条一項により少なくとも三〇日前に解雇の予告をなすか若しくは解雇予告手当として三〇日分以上の平均賃金の支払をなさなければならない。債権者が四月一日から同月二一日まで一四日を超えて働いたことは前記のように明らかであるから解雇予告手当の支払提供なしになされた本件解雇は無効である。

(二)  次に、債務者は訴外会社が、昭和五〇年四月二五日ないしは同年五月七日に至って、債権者に予告手当を提供しているのでその時点で、仮りにそうでないとしても解雇通告後三〇日を経過した時点で、解雇の効力が当然に発生した旨を主張するが、予告手当の提供の点は審尋の全趣旨によってもこれを認めるに足りず、≪証拠省略≫を以てもにわかにこれを認め難く、結局、本件仮処分申請に至るまで、訴外会社から債権者に対して右予告手当の提供がなされたとの疎明はない。のみならずそもそも訴外会社は前記昭和五〇年四月二一日の解雇通告が即時効力を生じたとして債権者に対して、この時以後の賃金の支払いを拒絶してきているのであって、このように、使用者が、解雇通告の効力が即時生じたことに固執し、これを理由に経過分の賃金の支払いを全く拒絶している場合には、他方で後に三〇日分以上の平均賃金相当額を「予告手当」として提供したとしても、右金員の提供は、その実質において、労働者にとって何ら予告手当本来の意義を有しないのであるから、これによって、労働基準法第二〇条に違反する解雇が、その時から有効になるものと解することはできない。本件仮処分申請後になって債務者は予告手当の支払の用意がある旨を口頭により債権者に申し入れているが、他方ではなお即時解雇に固執し、賃金の支払は拒絶しているのであるから、右口頭の提供の時から当然に解雇が効力を生じたと解することはできない。

また、同様に、使用者が解雇通告の効力が即時生じたことに固執し、これを理由に、以後の賃金の支払いを拒絶してきている場合には、その無効な即時解雇の通告に、他方で解雇予告としての効果を認め、その後法定期間が経過した時点で、当然に解雇の効力が生ずると解することはできない。すなわち、右のような解釈は、法定の手続に違反した解雇を行い、しかもその後もなお一方ではその即時解雇としての効力に固執している使用者の便宜に傾きすぎるものであり、他方で、これを受けた労働者の出所進退を迷わせ、かつ労働基準法が解雇には三〇日以上前に予告を要することとし、労働者に対して、安定した雇傭関係のもとにおいて、求職のための十分な猶予期間を与えようとした趣旨を、実質的に没却する結果になるからである。

従って、以上の点に関する債務者の主張はいずれも理由がない。

(三)  また、債務者は本件解雇の理由として債権者が独断的で協調性がなく仕事上のチームワークを乱したということを挙げ、それによって本件解雇が有効となるが如き主張をするが、仮に債務者の主張の如き事由が債権者につき存在したとしても、労働基準法第二〇条一項但書の労働者の責に帰すべき事由があった場合には当らないことはいうまでもなく、債務者が同条の解雇予告による手続的保護を受け得なくなるものではなく、依然として手続違背により本件解雇が無効とされることに変わりはない。

三  保全の必要性について

本件審尋の全趣旨によれば、債権者は会社より支給される賃金を唯一の生活手段とする労働者であり、現在アルバイトで若干の収入はあるものの、その額も少ないうえ収入も安定しているものとは言い難いので、本件仮処分を求める必要性は肯認することができる。

四  結論

よって債権者の本件仮処分申請はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用したうえ主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 磯部喬 裁判官 小田耕治 平澤雄二)

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